「医療事務はやめとけ」——。
ネットで調べると、この言葉が必ず出てきます。不安になって、このページを開いた人もいると思います。
ただ、この言葉が出てくる場面を整理すると、少し見え方が変わります。言っている人の多くは、自分か、家族か、友人が、その仕事を選んで後悔した経験を持っています。だから止めるのです。
つまり「医療事務が悪い仕事だ」という意味ではありません。こういう条件の職場に当たると、しんどいという警告です。
だとすれば、読み替えられます。どの条件に当たるとしんどいのかが分かれば、避けられます。この記事では、その条件を5つに分けて、根拠になる数字は、出典を添えて書いていきます。
運営者より|医療事務転職リサーチ
私は調剤薬局で働いていて、医療事務として働いたことはありません。この記事の現場の話は、隣で一緒に働いてきた医療事務さんの様子とそこから聞いた話です。金額はすべて目安として読んでください。
理由① 給与が、年齢のわりに上がりにくい
いちばん多く聞くのが、これです。
日本医療連合組合会の「2024年度 賃金・労働時間等実態調査」から、医療事務の平均月給を見てみます。
| 初任給 | 35歳 | 50歳 | 59歳 | |
|---|---|---|---|---|
| 高卒 | 164,035円 | 251,784円 | 325,424円 | 348,522円 |
| 大卒 | 189,131円 | 260,887円 | 337,433円 | 360,577円 |
出典:日本医療連合組合会「2024年度 賃金・労働時間等実態調査」
読み取れることは2つあります。
- 初任給は、高卒16.4万円・大卒18.9万円。ここは低い
- 59歳では高卒34.9万円・大卒36.1万円まで上がる。学歴の差は、晩年ほど縮まる
つまり「ずっと低いまま」ではありません。上がるまでの傾きが、ゆるいのです。同年代と比べて少ないと感じる時期が、いちばん長く続きます。
求人データから出した平均は、平均年収307万円・平均月収207,718円・平均時給1,401円という数字もあります(マイナビワークス調べ/2024年11月11日時点)。これはパート・派遣の求人が多いことが影響しています。フルタイムで働けば、話は変わります。
現場で見ていたこと
私の周りにいた医療事務さんは、扶養の範囲に収まるようにシフトを調整している人が多めでした。時給が高いから働くのではなく、働ける範囲でちょうどよくなるように調整する働き方です。この形だと給与の不満は出にくいかわりに、給与で生活を変えることもできません。どちらが良いではなく、そういう設計だということです。
理由② 業務範囲が、求人票の想像より広い
「受付と会計」だと思って入ると、たいてい違います。
実際には、電話応対、患者さんの呼び出し、カルテやレントゲンの準備、入院手続き、医師のサポートまで含みます。そしてレセプト(診療報酬明細書)の作成には、保険制度と診療報酬の知識が要ります。
しかも診療報酬は2年に1度、改定されます。一度覚えて終わり、にはなりません。
隣で見ていて、これがいちばん大変そうでした。
うちの薬局でも、調剤報酬が改定されるとレセコンの運用が変わります。医療事務さん側も同じで、改定のたびに前のやり方が使えなくなる。覚え直す作業が、定期的に発生します。
理由③ 残業が、月の前半に寄る
「毎日少しずつ」ではなく、毎月決まった時期に集中するのが特徴です。
レセプトの締めが月に1回あるため、月初から10日ごろに、入力と書類作成が重なります。受付や会計の担当でも、診療が長引けば、患者さんが帰るまで待つことになります。
この偏りは、事前に聞けば分かります。「締め日まわりの残業は、平均でどのくらいですか」と聞く。この質問の答えは、「残業はありません」という言葉より、ずっと役に立ちます。
理由④ 人間関係が、固定される
クリニックのような小さい職場では、異動がほとんどありません。
少人数の固定メンバーで、毎日顔を合わせることになります。合う人がいればいい。合わない人が1人いると、逃げ場がありません。
これは医療事務に限った話ではありませんが、異動という逃げ道がない分、重さが増すとは言えると思います。
理由⑤ クレームの矢面に立つ
病院の顔になる場所なので、まず医療事務さんに話が来ます。
診察内容への不満、治療費への疑問、待ち時間。治療費は、国が決めた算定方法で計算しています。担当者に動かせる余地はありません。動かせないものを、説明して帰ってもらう仕事です。
隣で聞いていて、これは技術というより体力だと思いました。
数字で見る:「離職率が高い」は本当か
ここは、分けて考えます。
医療事務だけの離職率というデータは、存在しません。医療事務には就業に必要な資格がないため、統計の区切りが作れないからです。これは医療系の求人サイトも明言しています。
代わりに見られるのが、業界単位の数字です。厚生労働省の調査では、就職後3年以内に離職した人の割合は、次のとおりです。
| 順位 | 高校卒 | 割合 | 大学卒 | 割合 |
|---|---|---|---|---|
| 1位 | 宿泊業・飲食サービス業 | 60.6% | 宿泊業・飲食サービス業 | 49.7% |
| 2位 | 生活関連サービス業・娯楽業 | 57.2% | 生活関連サービス業・娯楽業 | 47.4% |
| 3位 | 教育・学習支援業 | 53.5% | 教育・学習支援業 | 45.5% |
| 4位 | 小売業 | 47.6% | 医療・福祉 | 38.6% |
| 5位 | 医療・福祉 | 45.2% | 不動産業・物品賃貸業 | 36.1% |
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)」
新卒のデータなので、あなたの転職にそのまま当てはまるものではありません。ただ「入りやすく、辞めやすい」という業界の性格は、この数字に出ています。
もう1つ。医療事務の有効求人倍率は0.33倍(令和4年度・全国平均)です。求職者より求人が少ない、つまり応募が集まりやすい職種ということになります。選ばれる側に回るには、事前の準備が要ります。
出典:厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「医療事務」
判断材料は、先に揃えておく
向き不向きは、性格より条件で決まる
「自分に向いているか」で悩むより、条件で分けたほうが早いです。私が見てきた中での分かれ目は、この3つでした。
| 分かれ目 | 「やめとけ」になる側 | 続いている側 |
|---|---|---|
| 給与の見方 | 30代で同年代に並びたい | 40代以降で戻ればいいと決めている |
| 残業の形 | 毎日、一定のペースで働きたい | 月の前半に集中しても切り替えられる |
| 職場の規模 | 少人数で固定されるのが不安 | 人数の多い病院で、逃げ場を作れる |
性格の話にしないほうがいい理由は、条件は変えられるからです。気にしすぎるのは、変えられないものだけにしておく。これが、後から悔やまない選び方になります。
決める前に、確かめること
- 職場見学を頼む。可能なら、受付の様子を数分だけ見せてもらう
- 「締め日まわりの残業は、平均どのくらいか」を具体的に聞く
- 医療事務は何人いるか聞く。2人か10人かで、毎日が変わる
- 入職後に、教えてくれる人が決まっているかを確認する
特に最後です。「面接では未経験でも大丈夫と言われたのに、現場で放置された」という声は、この業界でよく聞きます。教える人が決まっているかどうかが、最初の1年を決めます。
よくある質問
Q. 資格がないと、始められませんか
必須の資格はありません。ただ、学んだ形が残っていると、面接で話せる材料にはなります。取るかどうかは、費用と期間を並べてから決めれば間に合います。
Q. 給与は、他の事務職より本当に低いのですか
平均で見ると、やや低い傾向です。ただしこれは、パート・派遣の求人が多いことが影響しています。フルタイムの正社員求人だけを見ると、差は縮まります。
Q. 薬局から医療事務に移る人は、実際にいますか
います。私の同僚では、調剤事務として薬局に残る道を選んだ人と、クリニックに移った人がいました。共通していたのは、移る前に、移った後の1日を具体的に想像できていたことです。勢いで決めた人は、だいたい元に戻っていました。
まとめ:やめるかどうかより、条件を1つ決める
「やめとけ」は、仕事の評価ではありません。条件の警告です。
だから、読み替えます。自分が許容できない条件は、どれか1つ。それだけ決めておく。
給与の上がり幅が許せないなら、フルタイムの正社員求人に絞る。残業の偏りが許せないなら、締め日まわりの残業を面接で聞く。人間関係が不安なら、人数の多い病院を選ぶ。
明日、求人サイトを1つだけ開いて、気になった求人の「残業」の欄を見てください。それだけで、この記事で読んだことが、自分の条件に変わります。


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